私を国立に連れてって

STAGE5・後編



 「やりましたよ!先輩!PKですよ!PK!!」
 仲野は人一倍興奮状態にあった。ロスタイムも終わろうかというこの時間でのPKの獲得。仲野の気持ちもわからないものでもない。
「まだPK決まってないのにそんなに喜んじゃって、みっともない。」
 その場にいた北津高校の深谷がすかさず横やりを入れた。
「深谷!てめぇ〜!」
 これを真に受けた仲野は今にも喧嘩をしかけようとしそうな感じだったが、高崎が止めに入った。
「やめとけ、仲野。お前がムキになっても仕方がない。落ち着け。」
「絶対に決めてくださいよ!高崎先輩!」
 が、仲野興奮状態はまだ冷めていなかった。この場合、レッドカードで退場、または乱闘で時間が潰れなかっただけでもマシと考えるかどうかは人それぞれではある。
「聞いちゃいないな。」
 高崎が半分呆れていたとき、宏樹がよってきた。
「なあ、ヤス?・・・PK、俺に蹴らしてくれないか?」
「珍しいな。今までPKを蹴りたがらなかったお前が、蹴りたいって言うなんて。」
 高校サッカーでもPKやFKは誰が蹴るのかを事前に決めている。都本城高校の場合、PKは高崎が蹴る事になっていた。ミーティングではエースストライカーである宏樹が蹴ってもいいんじゃないかという声は毎回あるのだが、宏樹は毎回断っていた。このチームで一番PKを蹴るのがうまく確実性があるのは高崎である事を宏樹は知っていたからだ。しかし宏樹にとってこの場面は違った。何よりも自分で決めなければいけない理由があった。
「夢、叶えてやらないといけないんだよ。あいつと約束したからな。」
 そう、友美と交した、国立へ連れてってやるという約束だ。
「佐藤さんの夢を叶えたいのは俺も同じだ。」
「あれ?何で知ってるの?」
 高崎は意外な返事をした。高崎も友美の夢を知っていた。これを聞いた宏樹は少し驚いた。
「中払から聞いたんだよ。」
 高崎は事前に友美の親友、中払彩乃から聞いていたのだった。それは、宏樹が怪我をした後の、友美が落ち込んでいた時期にさかのぼる。



 今日の授業も終わり、部活のため部室へと向かっていた高崎の元に、声をかける1人の少女がいた。
「あ、高崎だ。」
 声をかけたのは中払彩乃だった。
「なんだ、中払か。」
 高崎は適当に返した。これが彩乃には不快に思われてしまったようである。
「なんだとは何よ?ねぇ?最近、友美元気無いでしょ?」
 彩乃は唐突に友美に事について尋ねた。
「まぁ、そう言われてみればそうだな。友達同士で喧嘩でもしたんじゃないか?」
 高崎もここのところの友美は少しおかしいと思っていた。ただ、その原因が何なのかは高崎にもわからなかった。友達との喧嘩を疑ったが、彩乃に簡単に否定された。
「そんなんじゃないわよ。・・・国立競技場って知ってる?」
 彩乃があしらった後に口にしたのは、国立競技場の事だった。
「知ってるも何も、サッカー部の目標がそこに行くことだよ。それがどうかしたのか?」
 高崎にとっては愚問だった。高崎のみならず、高校でサッカーをやっているもの全員が目指すところ、それが国立競技場である。県予選を勝ち抜き、更に本戦で準決勝に駒を進めないと入ることが許されない聖地、狭き門である。
「友美も、みんなといっしょに国立競技場に行くのが夢なんだって。」
 彩乃は友美の夢を語った。実はマネージャーである友美も、国立競技場へ行くのが夢であった。
「・・・国立を目指すマネージャーなんて聞いたことないぞ。」
 確かに、マネージャーが、しかも女の子が国立競技場を夢見ている事なんて聞いた事がない。高崎にとってもこの話は意外だったのである。
「高崎君、キャプテンなんだから、チームの目標のためだけじゃなくて、友美の事も想ってあげて。ね?」
 彩乃は最後に高崎にお願いした。友美の夢を叶えてほしいということを。



「と、言うわけだ。」
「な〜るほど。」
 高崎はなぜ友美の夢を知っているかを宏樹に話し、宏樹は納得した。
「夢を叶えるのはお前に託す!だから、宏樹、絶対に決めろよ!」
 高崎は宏樹にPKを蹴るのを譲った。それは国立へ行けるかどうかの切符を渡したのと同じである。
 宏樹はボールを手に取りPKマーク向かい、そしてボールをセットした。ペナルティエリアの外には、こぼれ球を狙っている両チームの選手達が待機している。PKキッカーにしてみれば、周りを囲まれるというのは正直あまりいい気がしない。まるで檻の中に自分がいるように感じてしまうのである。スタンドと合わせれば、それは二重の檻である。プレッシャーも二重にかけられる。
 ボールを置いてから一時の間の後、ついに審判のホイッスルが吹かれた。PKを蹴る瞬間がきた。宏樹は冷静を装っていたが場面が場面である。さすがに内面は緊張しており、心臓の鼓動がいつにもなく大きく聞こえていた。
「さて、どうする?右、いや左に蹴るか?」
 宏樹は迷っていた。どこに蹴るかということを。



 PKはPKキッカーに有利なように思われているが、実は簡単ではあるが難しい。蹴るのは右か左か、正面か。実はこの三方向しかない。そしてゴールキーパー(以下GK)もこの三方向であり、PKキッカーがどこに蹴るかよんでセービングする(高度になるとPKキッカーがGKを動かしてから蹴ったり(蹴るタイミングを遅らせる)GKがPKキッカーの軸足
や目線、蹴る角度を見てからセービングする事もある)。PKキッカーの蹴る方向とGKがセービングしようとする方向が一致することは、実は非常に高い確率なのである。ましてやPKキッカーは隅を狙ってゴールの枠をはずすこともある。GKに当たって、セービングしようとしたが蹴ったボールの威力で弾いて入ることもあるが、総合的に考えれば五分五分であるだろう。それに、PKキッカーの心理状態が大いに関わる。決めなければいけないというプレッシャーがゴールを決める確率を落としているのである。



 宏樹もこの心理状態にあった。ゴールを決めなければいけない、そして友美を国立に連れて行くという約束を守らなければならない。まさに二重、三重、四重のプレッシャーがかかっていた。
(お願い!決めて!!)
 宏樹の頭の中に、友美の心の声が広がった。
「ち、こんなところで友美が急き立てやがる。」
 こういう時に聞こえると、さらにプレッシャーがかかる。
(コラ〜、迷うな〜!ストライカーならドバッっといきなさいよ!)
 友美の声がまだ頭の中をかけめぐっていた。しかし、宏樹はこの友美の声でふっきれた。迷ってても仕方ない。
「・・・・・あ〜もう!ぐだぐだ考えんのはやめだ!・・・こうなったら思いきって・・・・・」
 そうだ。GKに止められる事を恐れるよりも、自分の信じたコースに思いっきり蹴る事が大切である。宏樹はボールを蹴りこむために助走した。
(夢、叶えてくれるんだよね?)
 まだ宏樹の中に友美の声が聞こえていた。しかし、宏樹にはもう迷いはない。
「ああ、叶えてやるとも!」
 宏樹の意志は右足に乗り移った。脚を振りぬいた瞬間、ボールが歪むくらいのインパクトがあり最高の威力を発揮した。弾道はGKも反応してセービングしようとしたが更にその先を描いており、強烈なシュートがゴール右隅に突き刺ささりゴールネットが大きく揺らいだ。
 その瞬間、審判のゴールを認める笛が鳴り響き、スタンドが歓声で沸いた。この時、宏樹はようやくゴールを決めた感覚に浸った。3対2。都本城高校、後半ロスタイムに勝ち越しである。
「き、きまりましたよ!先輩!」
 ペナルティエリア外にいた仲野も大いに興奮していた。逆に近くにいた高崎は冷静にこの勝ち越しゴールの余韻に浸っていた。
「ああ。そして・・・・・」
 高崎が仲野に返答した直後、歓声に紛れて審判のホイッスルが鳴った。
「時間もな。」
 その審判のホイッスルは試合終了を意味するものであった。都本城高校、本戦出場決定である。フィールドにいた都本城高校の選手は輪になって喜びを分かち合い、ベンチにいた控えの選手たちもフィールドに入りその輪に混ざって喜んだ。監督やスタッフもベンチで握手を交わし勝利を分かち合った。その喜びの光景の中で、フィールドを見つめてる少女が1人。


「やったね!♪宏樹!♪・・・高崎、浩紀、ありがとう・・・」




あとがき

 とうとうここまできましたSTAGE5・後編!宏樹が決めてついに都本城高校本戦に出場決定です!県予選の試合数は県の高校数によって違ってきますが、だいたい4〜6試合はやると思います。この期間を短いか長いか感じるのは人それぞれですが、小説を書いて短いか長いか感じるのも人それぞれ。振り返ってみれば意外に短く感じました。けど書いているときは常に長く感じていましたけどね(笑)
 念のため書いておきますが、友美はエスパーじゃないです(笑)けど、頭の中に誰かの声が聞こえた!?なんてことは経験したことはあるんじゃないでしょうか?意外とこれが勇気をくれたりするものです。経験談。
 一応国立へのロードとしての話はここでお終いです。あとはその後のエピローグ編があります。エピローグ編も是非読んでください。さあ、自分も完結までラストスパート!
 


展示:2008/11/3



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