私を国立に連れてって

STAGE5・前編



 ボールを受けたそのプレイヤーは、相手DF2人を軽々とドリブルでかわし、ボールをゴール右墨に突き刺すシュートを決めた。ゴールと知らせる審判のホイッスルが高々と鳴り響き、スタンドの観客が沸きあがった。


 全国高校サッカー選手権大会・決勝、都本城高校VS北津高校。試合は都本城高校のペースで進み、FW高崎と仲野の活躍により2対1でリードしていた。しかし、FW海本宏樹はベンチスタートとなっていた。足の怪我の回復具合により、スタメンでの出場は厳しいものと監督は判断したのである。そして終盤まで白熱した試合展開の中の2対1。無難な采配をするとするならば勝っているチームは当然守りを中心に試合を組み立てる。そしてもうすぐ後半ロスタイム突入。攻撃の選手であるFW海本宏樹には出番はなかった。
 しかし、後半ロスタイムに突入する直前、北津高校の深谷が都本城高校ディフェンス陣の隙をつき、ゴールネットを揺らし2対2の同点に追いついた。試合は延長に入るのか、ロスタイムにドラマがあるのか、異様な空気が流れていた。


「そんな守りで固められても、どぉってことないんだよ!」
 同点ゴールを決めた深谷はFWながらゴール前まで守備に戻っていた高崎に指をつきさして向かって食ってかかった。
「・・・・・調子にのりやがって・・・・・」
 常に冷静な高崎でも、この態度にはめずらしくムカっときた。ムカっときたのはあと少しのところで勝利が離れていった悔しさもあったのかもしれないが。


 その頃ベンチでは、唖然としている者もいれば、意外にも冷静な者もいた。
「・・・2対2・・・同点・・・」
「さすが北津高校、ロスタイム直前で追いついてきたか・・・」
「関心してる場合じゃないですよ!監督!これからどうするんですか!?」
 その前者は友美、後者は監督だった。あまりの監督の冷静な分析に、友美は少し焦った。と同時に友美の頭の中には不安がよぎっていた。この試合、どちらに転ぶかわからないところまできた。試合の流れからすれば北津高校に傾いている。本当に勝てるのかどうかと・・・・・。その時、監督が口を開き、ついに次なる手をうって出た。
「流れが悪いな・・・延長で勝負した方がよさそうだ。おい!海本!」
 なんと、交代要員にもってきたのはFW海本宏樹であった。
「何ですか?」
 ウォーミングアップをしていた宏樹が監督のところに戻ってきた。
「今の時間、北津高校のペースになってる。ここは無理に攻撃に出ず、延長に勝負を掛けた方がいい。だから前線は仲野に任せてお前は守備に回れ。」
 この交代を意味するのはつまり攻撃に出ろという事である。しかし、もうロスタイムである。監督の作戦では、ここを守りきり延長戦にFW高崎、仲野、そして宏樹の3トップで勝負をかけるイメージだった。
「・・・・・嫌です。」
 しかし、宏樹は首を縦にはふらなかった。
「宏樹!?」
 監督の指示を拒否した宏樹に友美は驚いた。
「何か策でもあるのか?」
 指示を拒否した宏樹に、監督は宏樹の考えを求めた。
「向こうはこの勢いにのって試合を決めに来るはずです。だから全体的に上がってくると中盤にスペースが空きます。そこをつけばチャンスです。」


 宏樹の考えははっきりしていた。この試合、延長に持ち込ませずロスタイムで勝負する。まさに「攻撃は最大の防御」を宏樹は提案した。しかし、ロスタイムは短いもの。勝っているチームにとっては1分でも長く感じるものだが、負けているチーム又は勝負をきめようというチームにとってはあまりに短く感じる時間である。そんな短い時間で勝負する。成功する確率は非常に低い。ましてや、カウンターで失点し終ってしまう可能性だってある。監督としては非常に難しい判断である。

 
 しばらくの間を置いて、宏樹の考えを聞いた監督は結論を出した。
「・・・・・わかった。お前にまかせよう。残りロスタイム2分だ。一度あるかわからないチャンス、絶対にものにしてこい!」


 高校サッカーは選手達が成長する場所でもある。監督の指示通りに動くことは大切であるが、時にはこうやって自分の考えを監督に提案するして自分達のサッカーをしていくのも必要であるということを監督は大いにわかっていた。


 宏樹の考えを承諾した監督は宏樹を鼓舞しフィールドに送った。
「はい!」
 宏樹も自分の考えを認めてくれた監督に感謝し、いい返事をしフィールドに向かった。その後ろ姿はどことなく勇敢に見えるものがあった。
「監督?本当にそれで大丈夫なんでしょうか?」
 宏樹が交代でフィールドに入った後、友美は監督に尋ねた。宏樹は言ったことは必ず成し遂げるタイプ、友美はわかっていたが、この緊迫した局面で本当に宏樹を信じていいのか少し不安になっていた。
「多分、大丈夫だろう。みんなの脚はまだ止まってない。それに、今日の海本には今まで以上に気迫を感じる。この場面で何かやってくれそうな感じだ。」
 監督は宏樹が入った後のフィールドにいる選手たちのモチベーションの回復、そして何より宏樹のいつもと違うオーラを感じ取っていた。少し不安になっていた友美だったが、監督の言葉でスポーツショップの道中で宏樹が口にした言葉を思い出した。必ず友美の夢を叶えてやるという宏樹との約束を。
「約束がありますから。」
「何か言ったか?」
 思わず友美は口にしてしてしまったが、監督の耳には入らなかったようだ。良かったのか悪かったのか、当の本人は恥ずかしさ満タンであった。
「い、いえ!何でもないです!・・・・・・あ!」
 友美が焦っていたその時、フィールドに審判の笛が鳴り響き、スタンドが沸き歓声があがった。何が起こったのか。フィールドを眺めると北津高校のエリア、ゴール前で審判がペナルティースポットを指差していた。それを意味するのは、都本城高校のPKの獲得であった。




あとがき

 ついにきました最終章であるSTAGE5!の前編です(汗)当初の予定では前後にわけず通すはすだったんですが、書いているうちに長ったらしくなったのでキリがいいところでわけさせてもらいました。ボイスドラマもそれまでの章に比べたら確か長かったような気がしますしね。たぶんこの方が読みやすいです。
 最終章はいよいよ宏樹たちの都本城高校と深谷くん率いる北津高校の対決です。試合は白熱しています(汗)書いてて楽しかったというか、印象に残っているのは実は監督。監督の決断ってこういう時はかなり難しいんですよ。けど、読み返してみると意外とさらっとしてるような気もしますが(爆)そこのところはここもさらっと流してください(笑)
 さあ次回、後編は都本城高校PK獲得!そして蹴るのは!?決める事ができるのか!?決着の瞬間を見逃すな!!


展示:2008/11/3



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