私を国立に連れてって

STAGE1



 まさに『熱気漂うスタジアム』とはこの事を言うのだろう。『サッカー』という競技はフィールドもスタンドも熱くなるスポーツである。前者では両チーム22人の選手達がボールを追い、駆け回って攻撃と守備を繰り返している。後者は空席を探す方が難しいほど埋まっており、超満員と言って良い光景の中、そのスタンドからは大きな歓声、太鼓やトランペットの吹奏楽の応援が鳴り響いている。両者とも盛り上がりを見せ、皆1つの空間の中で歓喜を目指しているのである。

 なぜこれ程までの盛り上がりを見せているのか。それは高校サッカー部の誰もが憧れる『全国高校サッカー選手権大会』だからである。チャンスは高校生活中に3回。大会を勝ち進み準決勝へ行く事ができれば、プロでも滅多に試合を行う機会がない「国立競技場」で試合をする事ができる。その喜びと同時に頂点を極めれば文字通り日本一の高校になれる。高校サッカー部にとってこれ程の栄光はないであろう。その頂点を目指し闘っている都本城高校は本大会への初切符を得る為に今、このスタジアムで県予選に挑んでいるのである。

 しかし県予選のとある試合を闘っている最中、アクシデントが起きた。本大会への初切符に黄色信号が点されるとともに最後のチャンスとなる1人の少女の夢に影響を与える事になった。



 試合はまだ甲乙つかず、中盤に差し掛かったあたりだろうか。攻守入れ替わる激しい攻防が繰り広げられ、どちらにゴールが決まってもおかしくない状況だった。しかしその時、今までにない一際大きな打撃音がフィールドに鳴り響いた。
「宏樹、追いつけ!」
 ボールの打撃音、そしてこの叫んだ声の主は3年生のFW高崎康仁。都本城高校サッカー部キャプテンである。彼はFWながらパサーだ。FWは得点を決める事が常に求められるが高崎はアシストをする事に拘っている。なぜなら、もう1人のFW、相方を信頼しているからである。
「出た〜!高崎先輩のキラーパス!」
 後輩のMF仲野良太は思わず声を出してしまった。誰が見てもきれいなパスは1人の男、相方へ確実に届こうとしている。スタンドの観客も魅了され、歓声も更に大きくなる中、ベンチからも
「行け〜!♪宏樹〜!♪相手チームのディフェンダーなんかに負けるな〜!♪」
 声をあげる少女がひ1人。佐藤友美、都本城高校サッカー部マネージャーである。「おてんば娘」という言葉がピッタリと似合う明るい性格のベンチの癒し、かはどうかわからないが一応部のアイドルとも言えるかもしれない。彼女の視線の先には高崎の相方がいる。
「あ!!キーパーと1対1になった!!」
 高崎からのパスとの接点を予測し、相手ディフェンダー(DF)を振り切ってGKと1対1の場面を作った相方、それはFW海本宏樹である。本来のFWの仕事、点を取る役割をきっちり果たす「ストライカー」の称号がお似合いだ。実質、今予選に限らず今までの3年間、得点を量産してきた。しかし本大会出場に縁は無かった。



 サッカーというスポーツは得点を決めれば勝てるものではない。相手に得点を決めさせない『守備』も必要なのだ。どうしても攻撃に目を向けてしまうスポーツではあるが、本来は守備が大いに大切なのである。海本が得点を量産しても、その得点数を上回る得点を相手に謙譲してしまえば負け。今まで都本城高校が本大会に縁が無かったのはこれが理由である。しかし今大会は違う。能力の高い新入生が入り、MF仲野を含めた2年生もかなり成長し実力がついてきた。サッカー部全員の誰もが今大会に自信を持って挑んでいた。



 ゴールとほぼ正面。GKと1対1となった海本は高崎からのパスをダイレクトで合わせるため、ボールの接点へスピードを上げ走りこんだ。
「・・・止めれるもんなら止めてみろ!」
 そう海本自身心の中で叫び、気合を入れた。ボールの接点とのタイミングは実に良く、トップスピードで駆け込んだ海本はうまく足にあわせ、ダイレクトボレーを決めた。スピードと体重が乗ったボールはGKの反応を越え、横をすり抜けゴールに吸い込まれる弾道だった。パスの起点、高崎もその光景を追い、ゴールを確信した。
「決まった・・・な!宏樹!キーパー見ろ!キーパー!!」
 突如高崎が叫んだ。海本は高崎の声に反応し、GKの位置を確認した。するとGKとの距離はもう避けきれない程縮まっており、衝突を避けられなくなっていた。GKも海本のシュートコースを消そうとスピードに乗り前へ出てきていたのである。
「何!!」
 海本とGKの両者はほぼトップスピードに乗った形で衝突した。その瞬間、非常に痛々しい音がフィールドに響いた。しかし、その音は観客の声援にかき消され、観客を含めた大多数の目は海本が放ったシュートがゴールへ突き刺さるシーンに釘付けとなっていた。主審のホイッスルが鳴り響き、ようやく大多数の目は衝突現場に向けられた。その場へ逸早く駆けつけたのはパスを出した高崎であった。
「大丈夫か、宏樹?・・・お前・・・脚・・・」
 高崎は心配そうに海本に声をかけた。高崎は瞬時に怪我をしている事に気づいた。
「キーパーと接触した時に痛めたみたいだ。けど、これくらいなんとか・・・ぐぁっ!」
「おい!宏樹!!」
 海本が立ち上がろうとした瞬間、GKと接触した足に激痛が走った。その痛みは今まで味わった事のないものであり、力を入れようとすると忽ちナイフが刺さったような感覚に襲われた。
「先輩〜・・・・・・」
 後から駆けつけた仲野も心配そうに見ていた。ベンチでも海本のアクシデントの光景は映っており、タンカの要請や救護班で慌しくなっていた。
「靭帯(じんたい)を痛めた可能性があるな。森下!海本と交代だ!急いでアップしろ!」
 ベンチにいた監督は海本の負傷を見て、ベンチにいた控え選手との交代の決断を下した。それは止む終えない決断である。
「・・・・・宏樹・・・・・」
 

 友美は心配そうに、不安に怯えながらその光景をずっと見続けていた。





あとがき

 いや〜、勢いだけで書いてしまった小説版「私を国立に連れてって」(汗)
ボイスドラマの台本から書くという逆のパターンで色々と難しい面がありましたがSTAGE1なんとか完成です^^でも今節はほとんど説明ばっかですが(汗×2)試合シーンはうまく表現できたかな、とは思います。一応及第点?友美の夢&宏樹の怪我の行方にこうご期待ください(笑)

修正:2008/6/21



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